
https://www.youtube.com/watch?v=lVyd8iaYFfs
8月28日、クイーンのブライアン・メイがリード・ヴォーカリストとしてフィーチャーされた、スティーブ・クロッパー&ザ・ミッドナイト・アワーの心を揺さぶるソウルフルなバラード「My Angels Are Calling」のMVが公開されました。この曲ではメイの他に、ZZトップのビリー・ギボンズもギタリストとして卓越したプレイを披露しており、世界屈指のアイコニックなギタリスト3人が共演を果たした稀有なトラックとなっています。
アルバム『Watching The Tide』も同日、“Provogue / Artone Label Group” よりリリースされています。このアルバムのタイトルは、クロッパーがその生涯で共作した中でも最も有名な曲──オーティス・レディングの1967年の名曲『(Sittin’ On) The Dock Of The Bay』──にちなんで付けられたものです。高名なソングライター兼プロデューサーのジョン・ティヴェン、そしてミッドナイト・アワーのヴォーカリストであるロジャー・C・レアーレと共に楽曲を書き上げ、ナッシュヴィルの由緒あるRCAスタジオCで、アナ・グロッシュ(ボーカル)、 ニオシ・ジャクソン(ドラム)、エンジニアのエディ・ゴア(キーボード/パーカッション)、そしてウィッシュリストに載るようなギター・ヒーローたち(エリック・クラプトン、ビリー・ギボンズ、ブライアン・メイ、ロニー・ウッド)を擁する精鋭バンドと共に、レコーディング作業を行ったとされる83歳のクロッパーによるこのアルバムは、年齢を感じさせない若々しさと活力に満ち溢れています。
メイが作詞を担当し、作曲にも共同で携わったという別れのバラード「My Angels Are Calling」では、オープニングの波が岸に打ち寄せる音から、彼の優しいヴォーカルがスタックス・レコードが全盛期を迎えていたあの黄金時代へと聴き手を誘い、「行け、ビリー!」という彼の呼びかけに応えて登場したギボンズが、終盤のソロで仕上げにかかります。「ブライアンはスティーヴの視点から歌っているんだよ」と、ティヴェンは語ります。「彼の人生と歩んできた道を振り返っている。とても力強い曲だ」
メイはレコーディング・セッションをこう振り返っています。「スティーヴが亡くなった時、僕らはみんなとてつもない悲しみに包まれた。当時僕は既に、この曲の制作でスティーヴや彼のバンドと共同作業を進めていたところだったんだ。アルバムのプロデューサーであり、僕にとっては長年の友人でもあるジョン・ティヴェンから送られてきたバッキング・トラックには、長年にわたり僕らみんなに絶大な影響を与えてきた、スティーブ・クロッパーならではの独特なリフが入っていた。ただスティーヴが亡くなってすぐに、僕の頭の中にはまた別のアイディアが聴こえてきた──この曲をクロッパーそのひとへのトリビュートにしよう、ってね」
「僕としては、彼が自分の旅立ちの時を悟った、その瞬間の彼自身の心の中に入り込んでみたいと思ったんだ。だからこの曲では、彼の声で語りかけるようなヴォーカル・アプローチをあえて試みている。そして僕は、彼がきっといつもの楽観主義を何らかの形で発揮して来るだろうと感じていたんだ、ある種スピリチュアルなレベルでね。この曲では天使たちに呼ばれているという設定だけど、僕の感覚としては、彼は間違いなく自分の素晴らしい人生に感謝していると思うけど、それと同時に、天国に行くっていうのは彼にとって、オーティス・レディングと一緒にあの不朽の名曲『ドック・オブ・ザ・ベイ』を生み出したあの瞬間に戻ること、あの港の桟橋にまたひょいと腰を下ろすようなものなんじゃないかって気がするんだよ。ビリー・ギボンズに素晴らしいソロを演奏してもらえたことは、この体験の最後を飾る最高のボーナスだったね。バンド全員が素晴らしい仕事をしてくれたと思うし、自分自身その中で役割を果たせたことに大きな誇りを感じているよ」
このアルバムから最初にリリースされた曲は、タフなサザン・スモーク・ブルース調の「Ticket First」でした。この曲はジョークから始まり、最終的にはクロッパーと、同じくロック界の重鎮であるエリック・クラプトンが、鼻と鼻を突き合わせるようにリフを奏でる場面で締めくくられています。「エリックに『いやあ、見事にしてやられたな──あなたに共作者のクレジットをあげなきゃね』と言ったんだ」と、ティヴェンはゲスト参加したレジェンド・ギタリストの圧倒的なソロについて振り返ります。「そうしたらエリックは言ったんだ、『いやあ、スティーヴ・クロッパーと名前を並べてもらえるんなら、何だってするよ……』って」
アメリカ音楽のルーツと系譜に多少なりとも馴染みがある方なら、2025年12月のスティーヴ・クロッパーの逝去には、まさに激震が走ったことでしょう。ギタリスト、ソングライター、プロデューサー、エンジニアとして──かつて一世を風靡したレコード・レーベル、スタックスでの活動にとどまらず、数え切れないほどのセッションやソロ作品においても──このテネシー出身のソウル・マンは、戦後の一時代を貫くDNAそのものであり、彼の伝説的な右手が60年以上にわたりロックンロールのテンポを刻み続けてきたのです。
これはロックンロール全盛期、時代を席巻した音楽界の巨匠が放つ、重大な遺言とも受け取れます。けれど、このアルバムのサウンドから浮かび上がるのは、若き日の燃えるような情熱と老練な巨匠の知恵を融合させ、今なお溌溂とした絶頂期にある史上最高のアーティストの姿です。スティーヴ・クロッパー本人はこの世を去ってしまいましたが、『Watching The Tide』には、彼にはまだまだ聴くべきものが沢山あることを示しているのです。